袴田さん再審判断 問われる死刑制度
◆収監数十年、獄死も
公園のベンチで一息つく袴田巌さん。散歩は釈放後の「仕事」と称する日課だ=5日、浜松市中区で
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死刑確定後、二〇一四年の再審開始決定で釈放された袴田巌さん(82)は、死刑の恐怖にさらされながら半世紀近く拘禁された影響で、今も精神を病む。国内では袴田さん以外にも、独房での収監が長期に及ぶ死刑囚がいる。日本の死刑囚の処遇は非人道的との批判がある一方、世論調査では国民の多くが死刑存続を望んでおり、刑の在り方が問われている。
「死刑執行という未知のものに対するはてしない恐怖が、私の心をたとえようもなく冷たくする時がある」。一九六八年に一審死刑を言い渡された袴田さんは七三年一月二十六日、兄宛ての手紙に記した。八〇年の死刑確定後の日記には「私の心身は苦しんでいる。あせりと不眠。それから一種の恐怖。健全への渇望。それらが魂を圧倒し、時にとらえてはなさない」(八二年八月三日)とある。
法務省によると、五月二十五日時点の確定死刑囚は百二十四人。刑事訴訟法は確定から六カ月以内の死刑執行を定めるが、長ければ数十年にわたり収監され、獄死する死刑囚も相次ぐ。近年では、名張毒ぶどう酒事件の奥西勝元死刑囚=当時(89)=は死刑確定から四十三年、連続企業爆破事件の大道寺将司元死刑囚=当時(68)=は同三十年の収監の末に病死した。
民間団体がまとめた「年報・死刑廃止2017」などによると、二〇〇〇年以降に獄死した確定死刑囚は三十人で、四分の三を超える二十三人が高齢者だった。
認定NPO法人静岡犯罪被害者支援センター副理事長の白井孝一弁護士は「死刑は審理を尽くしている。再審無罪の可能性がない限りは被害者のために早く執行すべきだろう」と話す。
国の死刑に関する一四年度の世論調査では、9・7%が廃止を求めた一方、容認する人は80・3%だった。容認の理由として「廃止すれば被害者や遺族の気持ちが収まらない」との意見が最も多かった。
国は一九九九年十二月以降、再審請求中の死刑執行を見送ってきたが、一転して昨年は、再審を請求していた三人の死刑を執行。現在も袴田さんを含め確定死刑囚九十六人が請求中だが、上川陽子法相は昨年十二月、「請求中だから執行しないという考えは取っていない」と明言した。
九一年に兵庫などで女性四人を殺害したとして昨年七月に死刑が執行された西川正勝元死刑囚=当時(61)=も再審請求中だった。元弁護人は「再審の可能性は十分にあった。国は取り返しがつかないことをした」と憤る。
世論調査は仮釈放のない終身刑が新たに導入された際の死刑存廃も尋ねた。存続は51・5%、廃止は37・7%で差は大幅に縮む。
白井弁護士は「私も気持ちの九割は死刑廃止だが、死刑を終身刑に替えて済む話でもない。他国を見れば分かる」としてドイツの例を挙げる。戦後、死刑を廃止してから仮釈放のない終身刑が最も重かったが、受刑者が精神的に破綻し自殺するなどしたため、収監十五年から仮釈放を認める終身自由刑を設けた。白井弁護士は「死刑囚の実態を踏まえた新しい刑罰制度を考えるべきだ」と指摘した。
◆「残酷な隔離」海外から批判
袴田さんの収監期間は世界でも異例の長さだ。英ギネスワールドレコーズは二〇一一年、地裁判決からの約四十一年間を「世界で最も長く収監されている死刑囚」と認定。国外から批判の声が相次いできた。
国際人権団体アムネスティ・インターナショナルによると、全犯罪で死刑を廃止する国と地域は増え続け、一九九八年は七十だったが昨年は百六に増えた。アムネスティは、袴田さんが釈放された後の二〇一四年五月、報告書で「残酷な形で何十年間も隔離した」と批判した。
国連の自由権規約委員会も同七月、袴田さんの事件を念頭に、日本の確定死刑囚が独房に長期間収容され、執行日を事前に告知されないこと、自白強要の結果死刑が科されることなどを懸念事項として挙げ、日本に死刑廃止を強く求めている。
(鈴木凜平)
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